自作の小説(短編・長編、主に純文学)の連載。及びエッセイ、評論、ルポなどの掲載。
第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-9 (No.8より続く)

「よーし、ここまでは完璧」
 印刷機の後ろに隠れ、三人は一息つく。
「緊張してシャツもパンツも汗でビショビショだよ」
 行動を起こす度にブースケは文句を言うが、いちいち取り合ってはいられない。

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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-8 (No.7より続く)

「結局、大人はみんな、自分の都合でしか言わないんだから、ほっとけよ。あるときは『子供なんだから』って言うくせに、別の時にゃ『もう子供じゃないんだから』なんて言うんだぜ。混乱すること言うなって、怒鳴りたくなるよ。まったく」
「だからさ、ウィリー。黒人だから、ハーフだからって、何かあるたび引っ張りだされても、シカトしちまえよ。それにさ、英語じゃハーフって言わずにミックスって言うんだろ? ケニーさんが言ってたぜ」
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-7 (No.6より続く)

「どう?」
 すかさずブースケが静寂を振り払うように明るく訊く。
「だめだ」
 そっけない答えを聞くやいなや、首を引っ込め静寂の中に戻っていった。
「フーッ。八方塞がりか…。底冷えしてきやがったな」
 晃二がそう呟き、膝を抱えて溜息をついたときである。
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-6 (No.5より続く)

人差し指を口の前に持っていき、ウィリーは二人の顔をまじまじと見つめた。
「残ったのはお前らだけか」
「多分…。オレもさっきブースケを見つけて合流したんだ」
「それよっか、なんであんなとこに隠れていたのさ」
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-5 (No.4より続く)

「どうやって脱出すんの?」
 弱々しい声で尋ねるブースケを振り返り、「これから考えるからちょっと黙ってろよ」と、晃二は焦りと苛立ちを押さえ切れずに声を荒げた。
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-4 (No.3より続く)

「ブースケ」
 近くへ寄って声をかけると、その小さな影はブルッと震えた。
 もう一度小声で呼びかけると、涙でクシャクシャにした顔をこちらに向けた。
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-3 (No.2より続く)

 探し始めて十分ほどした時、さっきからステージ横の砂場を掘り返していた荒ケンが何かを見つけた。
「あったぞ! ここや」声を潜めながら荒ケンが叫んだ。
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年 冬-2 (No.1より続く)

 段々と目が慣れていった晃二が薄暗い視界の先に見つけたのは、一個の色褪せたボールだった。
 なんでこんなとこに…。
 不思議だった。普段、アウトボールが入る広い部屋と違い、この部屋はファールゾーンの一番端に位置しているのだ。
 アウトボールがこんな所にもあるのか。
 晃二は心の中で呟くと同時に、自分の置かれた状況も同様で、何かの手違いで迷い込んでしまっただけだろうと思い、少し安心した。
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第4章 アウトボールを追いかけて 1975年-冬

 サッと、ほんの一瞬だった。
 堅く閉じた瞼の裏側を、オレンジ色の光らしきものが浮かび上がった。それは一度だけだったが、少しの間、粘々した残像がこびり付いていた。怖さと緊張で息をするのもはばかれたが、ひとまずは状況が落ち着くまでじっと動かずにいるしかなかった。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-9(No.8より続く)

いきなり跳び蹴りから入る者、体当たりする者、皆それぞれ目の前の相手に思い切りぶつかっていく。晃二も、狙っていたヤツの両肩を掴み、力任せに押し倒そうとする。
 だが、相手の方が体重があるので、思うように倒れてくれない。互いに柔道の組み手のように肩を掴んだまま左右に身体を捩る。体格が劣る分、不利に感じられた。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-8(No.7より続く)

 この事件はモレを介して瞬く間にクラス中に伝わり、他のグループの奴らも憤慨して闘争心を燃やし始めていた。
「嘗められたらいかんぜ。復讐しねぇと」
 休み時間にも殺伐とした空気が漂い、ヤツらに対する罵声が飛び交った。
 やがて「決闘で決着をつけるべきだ」という声が圧倒的多数をしめ、にわかに全面戦争の様相を帯びてきた。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-7(No.6より続く)

 十一月に入り、時折木枯らしが吹くようになった。普段から半ズボンの晃二達は、足の間を音を立てるように風が抜けるたびに股に手をはさみ身体を縮ませていた。
 ハロウィンの事件以来、予想通りジミー達との間に漂う険悪な空気が日増しに膨らみ、燻り続けていたわだかまりと不満が爆発寸前であった。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-6(No.5より続く)

「この先になんかあったっけ? どこ行くつもりなんやろ」
 確かにこのまま行くと、一番外れに位置するブロックに突き当たる。その先は墓地になっていて、境はフェンスで遮られているはずだ。
 ウィリーは集会所の扉の前で一旦止まり、辺りを見回した。
 二人は気づかれたのかと思い、身体を強ばらせ息を止めた。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-5(No.4より続く)

 いつの間に……。ちょっとした油断でさらなる窮地に追い込まれた。
 なんで誰も気付かなかったんだ、責任転嫁するような視線でお互いを見やる。
 一難去ってまた一難。相手が小さいと見逃すのだが、高学年や中学生ともなると彼らは見境なく突っかかってくるのである。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-4(No.3より続く)

「やべっ、逃げろ」
 晃二達は紙袋を脱ぎ捨て、女の子を庇うようにして駆け出した。ここで前から挟み討ちされたらおしまいだ。咄嗟に尻のポケットに突っ込んであったヌンチャクを手にする。荒ケンとウメッチも同じ動作をしたが、表情は冴えなかった。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-3(No.2より続く)

「ねぇ、ねぇ。あれリサなんかじゃない?」
 歯に付いたヌガーをほじりながら言ったモレの言葉で、ウメッチの顔つきが変わった。
「うそっ。どこよ、どこ」
 辺りを見回し、彼女の姿を見つけたウメッチは一目散に駈けていく。
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-2(No.1より続く)

 ウメッチも、ようやくリサと一緒の時間を持てて喜んでいたが、一つだけ気にくわないことがあるようだ。
「ったく、何でリサは日本人のくせに、いつもアメリカチームばっか応援すんだよ」
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第3章 ハロウィンを待ちわびて 1974年 秋-1

「すっげぇ。なんか、映画に出てくんとこみたいだな」
 モレは晃二の耳元でそう囁き、WELCOMEと書かれた横断幕を口を半開きにしたまま見上げた。
 二階ほどもある高い天井に、大型車が楽に通れそうな幅広い廊下。
 バードスクール内の様子は、雲泥の差という言葉が当てはまるくらい自分達の校舎とかけ離れていた。誰もが目を奪われたまま呆然としている。
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第2章 スプリンクラーを浴びて 1974年 夏-9 (No.8より続く)

 そこからしばらくは一進一退が続く。
 その後、集中して一人に的を絞る作戦に切り替えたのが功を奏して、なんとか三人にまで減らしたが、こちらも生き残りは荒ケン、モレ、晃二の三人だけである。
 戦況がにわかに変化したのは、相手が弾を抱えて総攻撃に出ようとした矢先だった。
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第2章 スプリンクラーを浴びて 1974年 夏-8 (No.7より続く)

 ピーン。FENのラジオが一時を告げる。
 蝉の大合唱は今日の午後も盛大であった。
「で、どうする?」 
 このあとも犯人捜しをすべきか、三人は椚の根に腰掛け、話し合っていた。状況から考えても、ヤツらが戻ってくるのは夕方になりそうだった。
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プロフィール

shosho

Author:shosho
横浜の本牧で介護・健康系の会社をやっております。
元々、音楽系(バンドマン)でしたが、辞めてからは作曲・イラスト・印刷物デザイン・イベントなどの仕事を渡り歩き、現在は会社の他にNTTイベント(聴覚障害者向けコンサート)のディレクターやWEB、広告デザインなどをしております。
これからは小説執筆にも力を注いでいきたいと思っています。


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